確かに、最初から完成形と考えると、気負ってしまうが、「また来年、あるいは5年、10年経ったら見直して書き直そう」という気軽さで書けば、書き損じも、変更も気にならない。

「エンディングノートを書いていて、筆が止まる項目というのがあるかと思います。人によってそれは違うと思いますが、実はこの、すいすい書き進められない項目こそが、その人にとっての人生の課題。じっくりと考えるべき事柄であることが多いのです。まずは、書きやすい項目だけを埋めます。書けない項目については焦らず、時間をかけて、本やインターネットで調べたり、専門家に相談したりして、書き込んでいくと良いのです」

 これぞ、エンディングノート作成がもたらす、潜在的な人生の問題の解決の道。

「一生で一冊と考えるのではなく、その時点での考えをまとめるツールととらえていただくほうがエンディングノートの本来の良さが発揮できると思います。定期的に更新していくことをオススメします。書き込んだ日付を明記しておくと、自分の考え方の変遷も振り返ることができます」

 若いうちから書き始めること自体は、決して悪いことではないが、更新する前提で書こう。70代、80代で書き始めるよりも、人生の軌道修正力が強い50代前後で書くほうが、書き終えたものをいかようにも変えられる、というメリットがある。

「40、50代で一回書いておくと良いんです。やってみませんか」(市川さん)

 書いていると、自分の半生を振り返る時間が作れるだけでなく、大切なものが浮き彫りになり、残りの人生を丁寧に、大事に生きていこうという思いになれるというのもあるようだ。

 お正月に書けば、自分の思い出や大切なものを、その場で、家族の前でシェアできる。お父さんってそんな趣味があったの!と突っ込まれて、喜んだり、喜ばせたり。照れたり、悩んだり。言いにくい介護の話や、これまで避けてきた墓や相続の話もすっと、できるかもしれない。

 令和初のお正月ももうすぐ。ひとり1冊ずつ用意しておき、三が日は、書き初めをする感覚でエンディングノートを書いてみませんか。書きながらきっと、前向きな未来の話ができるはず。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2019年12月20日号