ヨーロッパの国々はそれぞれの文化を大事にしてきたからこそ経済成長率が良くなくても生き残れたが、今のように経済効率一辺倒で文化や美を忘れた日本が、経済が傾いても生き残れる保証はどこにもない。

 首里城の火災からかつての金閣寺の焼失をイメージした人も多くいたというが、あれは金閣寺の美しさに恋した少年の仕業だったとは三島由紀夫の「金閣寺」だったか。

 私は、芥川龍之介の「地獄変」をあの焼け落ちる影絵から連想した。

 日本にはかつての城跡が多く存在する。草に埋もれ苔むした城壁の上の城跡は想像を駆り立てる。城が再建された時よりも、思い描いている時の方が好きだ。

 できれば、焼け跡に足を運びかつての首里城を偲びたい。私の中の首里城はどんな姿で現れるだろうか。

 この後も、世界遺産としては変わらないという新聞記事を読んだが、ほんとうの文化とは一人一人の心の中にあるものではなかろうか。

週刊朝日  2019年12月6日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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