写真はイメージです(Getty Images)
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「年金がなく生活が苦しかった」

 84歳の無職の男は捜査員にそう話したという。

 東京・銀座で許可なくタクシー営業(白タク行為)をしたとして、警視庁交通捜査課は先月21日までに道路運送法違反の疑いで、東京都杉並区の84歳の無職の男ら3人を逮捕した。

 捜査関係者によると、銀座や新橋周辺で約40年間にわたって白タク行為を続け、月に約30万円を売り上げていたという。銀座8丁目付近では以前から、3人を含む70~80代の男ら十数人が白タク行為をしているのが確認されていた。

 銀座での白タクはどんな手口だったのか――。

 男らは平日の夜、銀座8丁目周辺の正規のタクシー乗り場で待つ客らに直接声をかけていたという。自家用車を使い、料金はタクシーより1割程度安く設定。実際に84歳の男は銀座から神奈川県伊勢原市内まで送り届けていた。

 元千葉県警交通警察官で交通鑑定人の谷宗徳さ
んが白タク事情について説明する。

「定年退職者らが白タクに手を染める動機は小遣い稼ぎ、生活費の足しにしようというものが圧倒的に多い。意外に良い稼ぎになるからです。月収100万円にも達する白タクドライバーもいます」

 一方、利用する客側にもメリットがあるようだ。

「ドライバーからしても『需要があるから』というのが本音でしょう。利用客からすれば正規のタクシーより割安だし、交際費がカットされつつある昨今、コスパが良い。客も白タクのナンバーを控えるわけでもなく、足がつきにくいというのも長らく続いてきた理由の一つと考えられます。要するに需要と供給のバランスがうまく取れていて『白タク市場』が成り立っていた」(熊谷さん)

 それではなぜこのタイミングでの摘発となったのか。

 捜査関係者が明かす。

「理由はシンプルです。東京五輪を来年に控え、銀座周辺の風紀を整えたかった。白タクもグループで銀座で営業するとなれば、反社会的勢力の後ろ盾がなければできない。ドライバーはみかじめ料を払っているとされています。暴力団による銀座でのみかじめ料の取り立てには、我々も厳しく対処しています。お目こぼししてきた白タクの検挙もそうした背景が一因としてあります」

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タクシー業界と警察の連携は