人は人生が終わりに近づいても、欲を捨てるのは簡単ではないと思うのです。あまり、いい人になろうとばかり思っていると、それがかえってストレスになってしまいます。

 ですから私はいい人になるのではなく、自分はいい人なんだと勝手に思い込むようにしています。実際、歳をとるとみんな、多かれ少なかれいい人になるものなんです。

 自分のことをいい人だと思うには、多少の工夫も必要です。例えば、タクシーに乗ったときには、お釣りを受け取らなかったり、ちょっと多めに支払ったりします。そうすると、運転手さんはみんな喜んでくれます。そのせいで、自分はいい人だと思えるのです。

 先日は母校の高校が創立100年を迎え、記念事業のための寄付を募ってきました。私は世間知らずで、どのくらい寄付をしたらいいのか皆目見当がつきません。いつも世話になっている病院の元看護師長に相談すると、すかさず「100万円ね」という答え。

 その通りにすると、送られてきた寄付者リストの冒頭に名前が載っていました。言われた通りにしただけなのに、それを見ると、「うん、私はいい人だな」と思うことができました(笑)。

週刊朝日  2019年12月6日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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