とは日本卓球協会の宮崎義仁・強化本部長だ。バックハンド以外に自信が持てる引き出しがないようでは、世界ランクで格下の選手との駆け引きにも限界があった。

 追う立場から、追われる立場へ。対策を講じられて以前のような成績が出せなくなると、長所だった思い切りの良さも影を潜めるようになった。

「他の選手が、昔の僕のように(自分に)思い切って向かってくる……。そこを乗り越えないといけない」

 自信を失ったように、そう漏らしたこともある。

 ただ、ここから張本は徹底してフォアハンドの強化に取り組むようになる。実際、国際大会への出発などの際、空港で報道陣の取材を受ける度に繰り返し語っている。

「フォアの強打の安定感がないと、チャンスボールを決めきれない。じゃないと、中国に勝つっていうことは非常に難しい」

「練習してきたことですか? フォアハンドです。どんな体勢でもしっかり良い体勢で打てるように」

 地道な努力がようやく実を結び始めたのが、この11月のW杯団体戦だったに違いない。世界ランク1位の中国選手を相手に、フォアハンドで対等に打ち合ってみせた。

「大事なところでフォアに打たれて、最後負けるっていう試合がここまで多かった。けど今回、(試合で)負けるにしてもフォアでは負けていなかった」

 もう、かつてのようなバックハンド一辺倒ではない。

「今まで、自分のフォアはなめられていた。でも、『簡単にフォアに打ってはいけない』というイメージを(相手に)させることはできたのかな」

 引き出しが増えたことで今後への展望が開け、にじむ雰囲気にも自信が戻り始めている。

 倉嶋監督が言う。

「エースとして自覚も出てきましたし、試合をやっている顔つきも良くなってきています。東京五輪に向けて、非常に良い経験をまた一つ、上積みできたかなと」

 東京五輪に向けて、16歳のエースが再び上昇気流に乗り始めた。(朝日新聞社スポーツ部・吉永岳央)

週刊朝日  2019年12月6日号