落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「パレード」。
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11月9日。夕刻。「渋谷らくご」という落語会の楽屋。スマホをいじっていると、天皇陛下御即位の国民祭典の生動画が流れてきた。そんなイベントがあるとは……。少なくともその時楽屋にいた噺家は誰も知らなかった。ボンヤリ見ているとフンドシ一丁の男の人が太鼓を乱れ打ち、ののちに開幕。……誰が構成を考えたんだろうか? 嵐、熱唱。芦田愛菜、立派。フンドシは謎。そうだった、パレードは台風被害で10日に延期になったのだな。明日か!?
11月10日。早朝。半蔵門のJFNでラジオの生放送終了後、9時に表に出る。なるほど、お巡りさんが多い。麹町駅まで歩いていると、新宿方面からサイドカーの付いた黒塗りのバイクが数台走ってきた。サイドカー……なんて「おとこのこ心」をくすぐる乗り物なんだろう。41年生きてきて、いまだに乗ったことがない。ここまで乗らずにきてしまったのだからもう一生乗ることはないんだろうな……。
帰宅。明日11日から10日間の地方公演だ。ラジオはレギュラーなので仕方ないが、今日は1日仕事を入れずに空けておいた。ゆっくり休む。午前中はとりあえず仮眠。午後起床。子供たちは学校の上履きを洗っていた。ああ、天気はいいのだな。テレビをつけると15時からのパレードに向けて各局特番。サッカー中継の局もある。ただEテレでは14時からいつもと変わらず「日本の話芸」という落語中継番組だった。
流れているのは昔昔亭桃太郎師匠の新作落語「結婚相談所」。安定のナンセンス落語。私は桃太郎師匠の噺が大好きだ。痛風で身動きがとれない時、桃太郎師匠の落語をヘッドホンで聴くのがなによりの痛み止めになった。魅惑のボソボソボイスが未知への領域にいざなってくれる。かなりヤバいクスリだ。ニヤニヤヨダレを垂らしながら観ていると、噺の終盤に桃太郎師匠はおもむろにサングラスをかけ、ハンドマイクで石原裕次郎の『嵐を呼ぶ男』を歌い始めた。もうダメ。最高……身悶えてるうちに噺は唐突に終わり、パレードまで30分を切っていた。