漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「グランメゾン★東京」(TBS系 日曜21:00~)をウォッチした。
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銀行、ロケット、シューズ、ラグビーとテーマは変われど、TBS系日曜夜9時といえば、わかりやすい悪役にベタな展開、大仰な音楽に彩られた敗者復活のドラマだ。
この「半沢直樹」以降のフォーマットに、意外なほどはまっているんだ、木村拓哉。今回の舞台はフレンチレストラン。木村の役どころは、かつてパリでミシュラン二ツ星を獲得していた天才シェフ・尾花夏樹だ。
パリ時代、日仏首脳会議のランチでアレルギー物質混入事件が発生し、その後転落人生を送る尾花。そんな彼が、星獲得の夢を抱く女性シェフ・早見倫子(鈴木京香)と出会い、再び東京のレストランで三ツ星を目指すという幕開け。
料理の腕は最高でも人間的には最悪な尾花。でも彼の料理を一口食べればあら不思議。ナスと白レバーのプレッセや、本州鹿のもも肉ロティとコンソメ。
「う~ん、美味(おい)しい!」
「バカうめぇな、こりゃ!」
み~んな心を許しちゃう。かつて離れていった仲間も戻ってきちゃう。倫子なんて土地と家の権利書まで差し出しちゃう。
つーか、「うまい!」って言う役者の演技がうまい。特に鈴木京香。だから天才シェフ・尾花の万能感が際立つ、際立つ。
考えてみればドラマも料理みたいなものだ。意外な食材=役者の組み合わせに、演技のバランス。掴(つか)みはOKな前菜に、メインディッシュ(主役)の存在感。
例えば「キムタクっていつもキムタクだよね」と言われるキムタク味は、今回も健在だ。ムカッとした時に、歯を食いしばったまま言うセリフ。握手をしてくれなかった相手の背中をバキューンと撃つポーズ。
そんな往年のイケメン演技も、ゴージャス食材(役者)に囲まれて、盤石の「半沢フォーマット」という皿の上にのせられれば「う~ん、なつかしいこの味!」と、ちょうどいいスパイスになる。だってみんな一度は食べたことがある老舗の味だから。
劇中、アレルギー物質混入事件を蒸し返され、レストランの予約は次々にキャンセル。客は潮が引くようにサーッと去っていくけれど、フードフェス参加をきっかけにネットで大評判。めっちゃ美味しいんだってと、あっちゅー間に客は戻ってくる。このアホみたいに踊らされている客こそ視聴者です、私です。
※週刊朝日 2019年12月6日号