「この二つの学部は近大の改革と伝統を象徴するような学部。学びや研究実績から選択されたのでしょう。従来の大学のグループ分けを元に大学を選択する時代が徐々に遠のいてきているように感じます」

 中規模大学ながら、存在感を発揮しているのが甲南大だ。数は少ないものの、甲南・経済と関西学院・法で甲南大を、甲南・経済と関西・商で甲南大を選んだ受験生がいた。

 甲南大の学長補佐で、経済学部の高龍秀教授は「4年間でしっかりと成長できる環境を整えていることが要因の一つ」と見る。甲南大は、関関同立・産近甲龍の中で学生数が1万人を唯一切る9千人。中規模の大学だ。ゼミ形式の授業が多く、細やかな指導を売りにしている。

 経済学部で特に人気があるのが、半期科目の「プロジェクトゼミ」。同大のOBには一線で活躍する経営者が多く、講師として招いている。授業では講師から経営にかかわる具体的な課題が提示され、学生は解決策を考える。最終的には高校生や学校教師が参加できる公開の場で発表を行う。

 これまで講師には、サンスターの濱田和生会長、象印マホービンの市川典男社長などが参加。学生からは評判も高い。高教授はこう見る。

「この授業を取りたくて、入学してくる学生もいます。偏差値という土俵で勝負していこうとは考えていません。中規模の利点を生かした成長できる大学として選ばれていきたい」

 最後に、国公立大と私大のW合格について分析しよう。昨今の経済状況や地元志向の高まりを受けて、私大よりも国公立大を選択する傾向は変わらない。授業料が私大と比較して安く、地元就職にも強いためだ。

 W合格で私大を選択しているケースも少なくない。私大でも国公立大に匹敵するような研究分野があり、就職でも私大ならではの強みもある。また、最近では、地方の優秀な学生を獲得するために私大は奨学金制度を充実させているので、条件が整えば十分選択肢になりうる。


 かつてのように偏差値やブランド力など一つの物差しで大学を選ぶ時代ではなくなった。W合格の入学比率は、一部の受験者の選択に基づくあくまで参考情報の一つに過ぎない。大学選びでますます重要になってくるのは、自分が将来何をしたいのか、そのために大学ではどういった学びをするかということだ。多様化する大学の特徴をしっかり見極め、後悔しない選択をしてほしい。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2019年11月29日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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