一般的にがんのリスク因子といわれている生活習慣(喫煙や飲酒、運動不足など)は、これら自身ががん細胞を作り出すのではなく、細胞の老化を早めることで間接的にがん発生に関わっているのだという。

 75歳以降のがんで悩ましいのは、治療の選択肢が限られてしまうこと。標準治療ができない可能性があると小倉さんは言う。

「今は75歳であっても体力がある方が多いので、手術ができるがんであれば手術を第一に考えます。ただ、抗がん剤を使った治療は高齢になるほどむずかしい。副作用が出やすく、合併症も増えるからです」

 乳がんや肺がん、大腸がんなど、多くのがんでは現在、補助療法といって手術の前や後に抗がん剤を投与して、目に見えないがんをたたく治療が行われている。だが、これも年齢的な問題で見送るケースが少なくないそうだ。

 もう一つ、小倉さんが指摘する75歳以降のがんの問題点は、重複がん。子宮がんと胃がん、大腸がんと肺がんというように、高齢になると違うがんが一度に見つかるケースも増えてくる。一度がんになったら、他のがんにはならないということはない。がん検診などで定期的に確認しておくことが大事だろう。

 先に述べたとおり、がんは細胞の老化が原因。高齢になったら、誰しも何かしらのがんになる可能性があると心得ておくべきだ。ならば、シニア世代で重視すべきは、予防よりもむしろ備えだ。具体的には、「手術と抗がん剤治療に負けない体を作っておくことが大事」と小倉さんは言う。

「まず“一人で歩いて病院に来られる”程度の体力はつけておきたい。実は、歩けるかどうかは、外科医とのカンファレンスでよく出てくる話なのです。治療に耐えられるかどうか、その基本的な判断材料としているんですね。見た目の“元気度”って大事なんです」

「後期高齢者」になる75歳で大きく変わる心と体。もちろん個人差はあるので、75歳を過ぎても元気な人もいれば、介護を必要とする人もいる。

「こうしたリスクをしっかり意識して必要な対策をとるかどうかは、自分次第。今からでも遅くありません。元気で長生き、寝たきりにならない生活を送っていただきたいですね」(東京慈恵会医科大学教授・横山啓太郎さん)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2019年11月22日号より抜粋