※写真はイメージです (Getty Images)
※写真はイメージです (Getty Images)

 小説家・長薗安浩氏の「ベストセラー解読」。今回は『お寺の掲示板』(江田智昭著、新潮社、1,000円※税抜き、8000部)を取り上げた。

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<ばれているぜ>

 ふらっと近所を歩いていると、時おり、寺の掲示板に貼られた言葉が目に入り、足を止める。それらは経文の一節であったり、先人が説いた箴言だったりするのだが、その時々にこちらが抱いている思いを見透かされたような気がして、つい見入ってしまう。

 江田智昭『お寺の掲示板』には、「輝け!お寺の掲示板大賞2018」なる企画をきっかけにSNS上で話題となった寺の言葉が、カラー写真で紹介されている。

 どれもはっとさせられる鋭さと深み、そしてうまみが備わっていて無理なく内省をうながしてくる。たとえば、表紙カバーにある大分県・雲西寺の言葉。

<ばれているぜ>

 仏様は寺の本堂や仏壇にいるだけでなく、いつだってあなたの行いを見ているのだから、後ろめたい行為もすべて「ばれている」と覚悟しなさい──自身が僧侶である江田は、それぞれの言葉に込められた仏の教えを解説し、掲示板を媒介とした仏教の伝道の可能性にも言及する。

 たしかにSNSが普及したこの時代、寺の掲示板の言葉はそのまま誰かに撮影され、世界中に拡散されていきやすくなっている。ちなみに、私が「もっと拡散を」と期待したのは以下の3点。

<終活することと あなたの成仏とは無関係です>
<人生が行き詰るのではない自分の思いが行き詰るのだ>
<他人と過去は変えられないが 自分と未来は変えられる>

 そして、寺の門前だけでなく、全国の駅のホームの掲示板に貼ってほしいと願ったのが、次の言葉だった。

<大丈夫だよ 生きていけるよ>

週刊朝日  2019年11月15日号