かくれんぼは/悲しいあそびです


 少年の日に/暗い納屋の藁束(わらたば)の上で/わたしの愛からかくれていった/ひとりの少女を/見いだせないままで/一年たちました/二年たちました/三年たちました……
(略)
 手鏡にうつる遠い日の/夕焼空に向かって/もういいかい?/と呼びかけながら/しずかに老(お)いてゆくでしょう

 僕は泣いているのを気づかれないよう電車の中で曇った眼鏡レンズを拭いたり、車窓から外の風景を眺めるふりをした。

 ポンちゃんと僕ら仲間は20代だった。この小説には「犬仲間」という言葉が出てくるが、動物同士のようにじゃれあっていた。彼女の住んでいた福生(ふっさ)にも当時は雪が積もった。吉祥寺でバンドを組み、バンドは居酒屋で酒を飲まなければならないと村さ来に行った。

 喧嘩と仲直りの繰り返しはまさに犬仲間。

 あと、「群れる」という言葉も出てくる。いつもつるんでいた。週末はジムに行く。遊びに行く場所は沢山あった。ポンちゃんは深夜のラジオでソウルミュージックとジャズを紹介してくれた。

 夢は現実になるのだと信じていたあの頃を思い出し、読了して『ファースト クラッシュ』を抱きしめた。

週刊朝日  2019年11月15日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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