問題は日銀。ホームページによると、98年に財務の透明性を高め、経理基準の明確化を図る観点から、会計処理の原則と手続きを「会計規程」として公表したという。内容は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を尊重しており、その結果が簿価会計の一つ「償却原価法」なわけだ。

 たしかに98年時点での日銀の保有国債は、3カ月程度の短期国債ばかりだった。満期保有がほぼ当然で、償却原価法による簿価会計は妥当だったと思う。

 だが、事態は著しく変わった。現在、保有の大半は長期国債で、満期まで持ち続けるとは思えない。景気が過熱しインフレ率が高騰すれば、日銀は470兆円もの長期国債を満期まで保有し続けられない。売却して市場に供給したお金を回収しなければ、インフレを抑えることができないためだ。ならば、民間金融機関と同様に時価会計が筋だ。

 時価会計が採用されていたら、日銀は異次元緩和の名目で、ここまで長期国債を爆買いできなかった。評価損発生時に総裁の頭に出来るかもしれない円形脱毛症の大きさだって、私の比ではないと思われる。

 簿価会計で世間をごまかしても、いつかは日銀の脆弱(ぜいじゃく)性にマーケットが注目しはじめる。円が大暴落し日銀が倒産する日が来ることを、私は危惧する。

週刊朝日  2019年11月15日号

著者プロフィールを見る
藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

藤巻健史の記事一覧はこちら