ジャーナリストの田原総一朗氏は、「世界はずっと安全になった」と主張するトランプ大統領に異議を唱える。
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10月27日にトランプ米大統領が、ホワイトハウスでテレビ演説し、シリア北西部で過激派組織「イスラム国(IS)」の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者に対して、米軍が急襲作戦を実施し、同容疑者が死亡した、と発表した。
トランプ大統領は、「このことによって世界はずっと安全になった」と自賛したが、世界の新聞もテレビも、「組織の指導者が一人消えても、過激思想はなくならない。テロを生み出す土壌も変わっていない現実を、米国も国際社会も見失ってはなるまい」と強調している。
そもそもISが生まれた背景には、2003年に米国が始めたイラク戦争があった。当時のブッシュ大統領は、イラクのフセイン大統領が中東を支配しようとしているのを許しがたいとして、イラク戦争を始めたのである。独裁者であるフセインを潰せば、中東が民主主義的になるとでも考えたのだろうか。
トランプ政権で国防長官になったジェームズ・マティスは、「第2次大戦以後、米国は戦争には勝てばよい、と捉えていた。ベトナム戦争は勝てない戦争であった。だから、これは失敗で、その後は勝てる戦争しかやらなくなった。だが、アフガン戦争やイラク戦争で、米国は勝ちはしたが、そのことによって中東が大混乱に陥った。だから米国民は大反省をして、そのために史上初の黒人大統領オバマが誕生したのである」と述懐している。
ロシアのプーチン大統領が興味深い発言をしている。
「イラク戦争を始める時、ブッシュ大統領は、独裁者フセインを潰せば、中東は民主主義になる、中東の国民たちはそれを願っている、と捉えたのかもしれないが、これは間違っている。中東の国民たちが求めているのは安定である。だから、チュニジアやリビア、エジプトなどの独裁者が失脚した時、米国人たちは『アラブの春』などとはやしたてたが、結局軍事政権になっただけではないか」