古賀茂明「トランプの軍門に下ったトヨタの未来」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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古賀茂明「トランプの軍門に下ったトヨタの未来」

連載「政官財の罪と罰」

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古賀茂明週刊朝日#ドナルド・トランプ
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など

トヨタの豊田章男社長(C)朝日新聞社

トヨタの豊田章男社長(C)朝日新聞社

 10月28日のニューヨーク・タイムズにとても残念な記事が出ていた。

 日本が誇る自動車メーカー「トヨタ」が、米GMなどとともにトランプ大統領の側に立って、カリフォルニア州が進める自動車の環境規制に事実上反旗を翻したというニュースだ。

【写真】トヨタの豊田章男社長

 日本の自動車メーカーといえば、排ガス削減や燃費低減で世界をリードしてきた。世界市場の中で確固たる地位を築けたのも先進的な環境技術のおかげだ。

 日本人にとって、ガソリンがぶ飲みのアメリカ車は、燃費が悪く不経済というだけでなく、日本に技術力で負けたダサい車として、その人気は地に堕ちた。一方、日本人は自国の自動車メーカーに対して高い誇りを感じるようになった。

 今日、日本メーカーの技術力は、断トツ世界一とは言えないが、引き続き高水準にある。カリフォルニア州を筆頭に、EUや世界最大の自動車市場となった中国などが導入する、日本よりはるかに厳しい環境規制への対応でも生き残りをかけた技術開発を続けてきた。

 一方、トランプ大統領は、就任直後に気候変動に関するパリ協定から離脱したが、その後も、カリフォルニア州などが定める世界最先端の厳格な燃費・排ガス規制を撤廃し、連邦政府の規制をさらに弱めて全州に適用しようとしている。世界の趨勢に真っ向から刃向かうこの動きに対しては、世界中から強い非難が浴びせられ、国内でも、カリフォルニア州などは反トランプで戦う姿勢を貫く。両者の対立は深まるばかりだ。

 こうした状況の中で、日本メーカーの中でも常に独自の姿勢を貫くことで知られる「ホンダ」は、米フォード、独フォルクスワーゲン、同BMWとともに、今年7月に、カリフォルニア州がオバマ大統領時代に設定した環境基準に近いレベルの非常に厳しい規制に従うことで同州と合意したことが報じられた。

 トランプ氏は、これをただのプロパガンダだと強く批判したが、同州やホンダなどの努力は称賛に値する。日本人としては、トヨタなどの他の日本メーカーもこれに続いてほしいと願うところだ。

 ところが、今回の報道によって、その期待は完全に裏切られた。GMは長期間の労働組合のストなどで経営が悪化している。「貧すれば鈍する」で、安易な道に身を落としたのだろう。しかし、トヨタは、今も他のメーカーをはるかに凌ぐ利益を上げ、将来への投資余力もある。今のうちに厳しい環境規制に対応して他社に差をつけるというのが本来の姿……そう思う人は多いだろう。しかし、トヨタにとっての現実は厳しい。同社は、電気自動車(EV)で大きく出遅れ、いまだに販売できない状況だ。テレビCMでは自動運転で最先端を行くような宣伝をしているが、グーグルなどのはるか後塵を拝していることは専門家ならだれでも知っている。これだけの好業績をあげながら、給料の引き上げに極めて慎重なのも、将来への自信がないからだろう。

 今回、トヨタはトランプ陣営に与して世界の潮流に反旗を翻した。企業の社会的責任を無視して自社の短期的利益を最優先する姿勢は「トヨタファースト」と揶揄されても仕方ない。日本が誇る企業なだけに、とても悲しい思いだ。

 ほとんどの分野で世界一の座から滑り落ちた日本の産業。最後の砦、自動車産業でもトヨタがこのありさまでは、その未来は決して明るいものとは言えないのではないだろうか。


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古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など

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