死後に漏れ出る体液で汚さないための配慮。死後に迷惑をかけたくない。そこまでの気遣いのできる人が、残された両親の悲痛を……と暗澹(あんたん)となる。

「自殺する人に多いのは、何カ月も前から準備していること。たとえば、ぶら下がり健康器とブルーシートとカーテン、あとは靴が一足しかなかったケース。依頼人の上司の人が言うには、わたしと変わらない年の男性で、勤務5年。隅々まで掃除をされていて、余計になぜ、ここでなのだろうかと思いました」

 取材に先立ち、小島さんたちが関わる特殊清掃の現場を追ったドキュメンタリー「LONELY DEATHS」(伊藤詩織監督)をネットで視聴した。

 驚いたのは、どの現場でも消毒殺虫剤を手に防護服、防毒マスクのフル装備で先陣をきるのが小島さんだったこと。「早くなんとかしてあげたい」気持ちがそうさせるのだという。

 ドキュメンタリーの中で印象に残ったのは、死後数カ月して発見された60代男性のケース。電気、水道、ガスが止まったまま3年ちかく独居を続けていた。隣室の住人が異臭を訴え、発見に至るまでに相当の日数がかかった背景には、現代日本ならではの近隣関係が関係している。

「おかしいと思っても、みんな第一発見者になりたくないんですよね」

 かと思えば団地で遺品整理をしている最中、住人が頻繁にのぞき込み質問攻めにあう。「故人の友人」を名乗る人間が押しかけ、強引に遺品を持ち去ろうとする。本ではあきれ果てるような事例が紹介してある。それほどの好奇心をわずかでも生きているうちに発揮していれば、孤独死は食い止められたのでは……。話を聞くほどに、もやもやしてしまう。

 小島さんの上司にあたる「遺品整理クリーンサービス」代表の増田裕次さん(44)は、特殊清掃の仕事について「100人中99人は続かない」という。中には昼食の休憩中にいなくなることもある。ベテランの増田さん自身「鼻腔(びこう)にこびりつく異臭は慣れるものではない。いまだに嘔吐(おうと)しています」という。その傍らで、小島さんは「臭いでやめたいとは思ったことがない」。

 小島さんが孤独死の現状を伝えたいとミニチュア制作を申し出たとき、増田さんから一笑に付されたそうだ。

「最初は写真を掲示するなどしていたんですが、足を止める人は少なかったのと、遺族への配慮も必要となる。思いついたのがミニチュアだったんです」

 しかし、なぜミニチュアなのか。「うーん。思いつきとしか」と考え込む。「なぜ……。つながりというと、高校3年生のときに模型同好会でガンダムのプラモを作っていたぐらい」

 最初は茶々を入れていた増田さんも、いまでは小島さんに感化されミニチュア作りに加わっている。しかしセンパイの小島さんは「一緒にされたくはない」らしい。違いは、増田さんが作るのは心を動かされた「ある部屋」であるのに対して、複数の現場の集合体であること。そこは譲れないこだわりだ。「だから伝えたいテーマがなくなったら終わりにします」

 展示を続ける中で眺める人の反応も変わってきた。「自分のおじも……」と体験を話す人が増えてきた。

「自分のまわりでそんなことは起こらないと思っていたのが、起こりはじめたということなんでしょうね」

 最後に小島さんに制作の原動力を尋ねた。

「たとえば、これをきっかけに、今晩親に電話してみようとか。そう思ってもらえたら、やってよかったと思います」

(朝山実)

週刊朝日  2019年11月8日号