科学的には、性別に関係なく、脳の「老化」にあると分析する。

「人の脳は加齢とともに前頭葉の機能が低下する。思考や判断、計画、抑制などをつかさどる領域が衰え、怒りの感情を抑えにくくなると考えられている。早い人だと40代半ば過ぎから『老化』が始まるとされている」

 そうなると、気をつけなければならないのは、シニア世代だけでなく、中年からということになる。

 たしかに、キレる中年の事例も少なくない。

 今年7月4日。JR目黒駅近くの路上で、47歳の男が、「肩がぶつかった」と言い、相手男性の目を傘で突き、失明させた事件があった。捜査関係者によると、男は自宅周辺で近隣住民とたびたびトラブルを起こし、「キレる怖い人」と認識されていたという。

 川合さんは、この男の行動の背景心理についてこう説明する。

「普段から攻撃性が強かったとすれば、キレるスイッチが入る起点が低かったのだろう。この起点も人それぞれ個人差がある」

 また、前出の片田さんは次のように分析する。

「『怒りの置き換え』によるものだろう。欲求不満がたまった末の行動だ。例えば会社員なら、上司や取引先に怒りを直接ぶつけるわけにはいかない。そのため、怒りの矛先を向け変え、部下や後輩などの弱い者に怒りをぶつける。最近話題になっている『カスハラ(カスタマーハラスメント)』もそうだ。店員など言い返せない立場の人に、ため込んだ怒りをぶつけてしまう。怒りの置き換えが日本社会に蔓延していると言える」

 片田さんによると、教職員のいじめも「怒りの置き換え」によるという。

「いわゆるモンスターペアレントへの対応などで教師もストレスがたまっている。それでも怒りの原因になった相手には直接ぶつけられない。その怒りの置き換えで20代の若い教師がターゲットになったのだろう」

 片田さんによれば、キレる原因を分析すると4つの要因が浮かび上がるという。

(1)脱抑制
 老化に伴い抑制が利かなくなること。前頭葉は脳の司令塔で、感情や衝動を制御しているので、老化によって前頭葉の機能が低下すると、キレやすくなる。個人差があり、自制できる人もいる。認知症も絡む。前頭側頭型認知症という主に前頭葉と側頭葉が委縮する認知症では、キレやすくなる。暴言・暴力や反社会的行為が出現することもある。キレやすい高齢者は認知症の可能性も疑うべきで、MRI検査を受けた方がいい。

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心の「アクセル」と「ブレーキ」の調節