「役者の地位の低さというものを感じていたんです。それで、現場で監督に意見を言ってぶつかり、論破する。それがある種、快感だと思っていました。そういう、非常に愚かしい自分がいたわけです」

 態度を改めたのはベテランのスクリプター(記録係)の苦言だった。「勝ったつもりでいるかもしれないけど、あんたが監督をやり込めるとスタッフ全員が屈辱感にまみれるんだよ」

「それでハッと気づきました。監督はスタッフの代表です。その頂を皆が見上げながら仕事をしているんだ、と。それからは、意見があるときは事前に監督と話し合い、方向性を決めていくようにしています」

 もちろんスタッフの前か、監督と二人きりかという違いだけで、意見を言う姿勢は変わらない。

「役者という仕事を皆さんがどう思っているか知りませんが、考え方は二つあるんです。ひとつは、脚本に書かれていることを正確にやるという考え。それだと、どの役者がやっても一緒になるわけじゃないですか。僕はやっぱり、自分という体の中にその役を一回通してみる。すると体の中から発露していく。変な言い方ですが、“汗”や“おしっこ”として出てくるものがあるんです。その色を見て考えることで(脚本に書かれている)二次元から、(役を演じる生身の)三次元になる。こういう形もあるんではないかと感じることがあったら、監督に提案させていただきます。あまり押しが強くない程度に(笑)。親父を見てたから、そうなったんでしょう。親父もそういう人だったんで」

 親父とは、言うまでもなく、三國連太郎さんのことだ。51年のデビュー以来、60年にわたって邦画界を牽引(けんいん)した名優である。

 その三國さんは、佐藤さんが「今、こういう仕事をして面白いんだよ」と話すと、嫉妬したという。

「態度を見ていると、明らかに『羨(うらや)ましい』と感じているのが分かる。役者というのは、そういうもんだと思います。何十年も前に、緒形拳さんにも『面白そうなことをやってるな』と言われたことがあります。僕も若い奴が面白そうにやっていたら、そう言いたい。『それだけいい仕事に恵まれてるんだから、下手打つんじゃねえよ』という気持ちも込めて」

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