そのときにポイントになるのが、若者のような速さ、機敏さはもうないということです。

 貝原益軒は『養生訓』のなかで、「老後は、わかき時より月日の早き事、十ばい」と話しています。そして、「一日を十日とし、十日を百日とし」過ごせというのです。

 これは逆にいうと、若い時に1日でできたことが、歳をとると10日かかってしまうということです。

 しかし、それでもいいではないですか。ゆっくり、じっくりと、量よりも質です。

 若い時のスピードからは気づかなかったものが、老年になってゆっくり歩んで見えてくるはずです。自分のやるべきことをゆっくりじっくりステディにやっていきましょう。

 ちなみにステディとは、船をこのまま真っすぐ進めよという時の号令に使われる言葉だそうです。日本語では宜候といいます。子どもの頃に「面舵、取舵、宜候」とかけ声をかけて遊んだことを思い出します。

 それにしても、宜候とはナイス・エイジングにぴったりなかけ声ではないでしょうか。これまで、紆余曲折、様々な人生を歩んできて、これからはゆっくりじっくり真っすぐに進んでいくのです。舵取りは宜候でいきましょう。

週刊朝日  2019年11月1日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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