山北町の湯川裕司町長は、撤収する陸自の隊員に町役場で謝罪したという。

「自衛隊とは日頃からおつきあいしており、すぐに支援に来てもらったのに、申し訳ないと謝りました。災害派遣要請の手順があることは分かるが、せっかく来てもらったので、住民に水を配ってもらえたら良かった。県には手順とかメンツがあったのかもしれませんが、もっと柔軟に対応して欲しかった」

 結局、陸自の給水車3台は引き上げ、代わりに県の給水車2台が来ることになった。町によると、県の担当者は「県の方で給水車が用意できるので、そちらを優先して欲しい。なんらかの状況で山北町まで行けない場合は、自衛隊に要請するのもやむを得ないが、まだそういう段階ではない」と主張したという。渋滞もあって、県の給水車2台が到着したのは午後1時前だった。

 町では水害によって一時約2500戸が断水。町役場の支所などに土砂が流れ込み一部の道路が寸断されるなど、深刻な被害が出た。現在は県のほかにも複数の給水車が到着し、支援活動が行われているという。

 神奈川県災害対策課は取材に対し、町からの派遣要請の求めは断っておらず、「お預かりの状態」だったとしている。

「県にも給水車がある。日本水道協会にもお願いしたのかと町に確認し、まずは県や協会に要請しましょうと町には伝えた。それで足りなければ自衛隊に要請するのが手順。県としては自衛隊が町に到着していたことは知らなかった」(同課の担当者)

 陸自駒門駐屯地の広報担当者は、給水車3台が活動できないまま撤収した事実関係は認めたが、「この件に関してはコメントを差し控えたい」している。

 自衛隊の災害派遣については、文民統制(シビリアンコントロール)を守る観点や、市区町村でバラバラに求めて混乱するのを避けるため、都道府県知事が要請することになっている。現場の独断専行を許さないためにも、このルールは徹底されている。

 阪神・淡路大震災などこれまでの災害でも、要請に時間がかかり初動が遅れたとの批判があった。近年では、自衛隊は正式な要請を待たずに準備を整え、都道府県もすみやかに要請するよう、改善が進んでいた。それだけに今回の神奈川県の対応には、ネット上などでも疑問が噴出している。

 一方で、台風19号では神奈川県内でも各地で大きな被害が出ており、災害対策本部が慌ただしいなか、県が柔軟に対応できなかったとしてもやむを得ない面もある。県は災害対応もあって今回の問題の検証はこれからだとしている。災害派遣要請のルールを守りつつ、いかに早く住民を支援するかが、各自治体に問われている。(本誌・多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事