

ジャーナリストの田原総一朗氏が、憲法改正を目指す現政権にやるべきことを提示する。
* * *
安倍晋三首相は10月8日に国会で「与野党の枠を超えた議論を深める中で、令和の時代にふさわしい憲法改正原案を作成していただくことを期待する」と強く呼びかけた。
安倍首相は何としても憲法を改正したいと願っているのである。
現在の憲法は、9条2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と明記している。
実は、自衛隊が生まれたのは1954年で、翌55年に自民党が結成された。そして、初代総裁・首相の鳩山一郎は、自衛隊と憲法が相矛盾していると捉えて、自主憲法の制定、つまり憲法改正を唱えた。岸信介首相も憲法改正を主張した。だが、その後の池田勇人以来、佐藤栄作、田中角栄、そして小泉純一郎、麻生太郎に至るまで、自民党のどの首相も憲法改正を唱えていない。なぜなのか。
昭和時代に、軍が暴走して無謀な戦争を起こし、日本を無残な敗戦に導いたことを強く反省し、歴代首相はいってみれば「軍からの安全」、つまり自衛隊の統制に神経とエネルギーを注いできたからである。
だが、いわばハト派中のハト派である井上達夫氏(東大大学院教授)は「9条2項があるために、安全保障政策についての実質的議論が棚上げされ、9条解釈の『神学論争』にすり替えられてきた。さらに2項で『戦力を保持しない』と明記しているために『戦力統制規範』、つまり戦力が乱用されないように、戦力の編成方法や行使手続きを統制する規定が、憲法に盛り込まれておらず、現状のままで自衛隊を戦場に送り出すのは危険極まりない」と強調している。井上氏は、安倍首相と方向は相当異なっているのであろうが、憲法改正論者なのである。