20年以上にわたり地域住民の健康を守る苛原医師 (苛原医師提供)
20年以上にわたり地域住民の健康を守る苛原医師 (苛原医師提供)

 人生の最後をどこで迎えるか。樹木希林さんの「死ぬときぐらい好きにさせてよ」が話題になったが、それをかなえる方法のひとつが在宅医療だ。昨年亡くなった樹木さんも自宅を選んだ。ただ、望みどおりにその時を迎えるためには準備も必要。在宅医の選び方や付き合い方、最期の時間を過ごすときに知っておきたいことをまとめた。

 最後ぐらい好きにさせて。そんな医療・ケアを受けるために大事なのは、自分の希望や意思を周りに伝えること。そのための取り組みが、人生の最終段階の医療やケアについて本人が家族や医療・ケアチームと話し合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)」だ。在宅医療ではこのACPに基づく医療・ケアが始まっている。

 在宅医療の黎明期から30年近く栃木県小山市の地域医療に貢献してきた医療法人アスムス理事長の太田秀樹医師は、「ACPというと患者と交わす“契約”みたいに思いますが、患者さんが望まれない形で最期を迎えないために意思を確認すること」と話す。その中心にいるのは患者であり、家族は「患者にどうしてあげたいか」を考えるのではなく、「患者が望んでいることは何か」を受け止め、必要に応じて医療者やケアチームに伝える。

「在宅医の役目は、患者さんに正確な医療情報と、それが今の患者さんの状態からするとどの程度当てはまるのかをお伝えすること。決めるのはあくまでも患者さんです」(太田医師)

 ただ、これがむずかしい。太田医師は続ける。

「患者さんが気にかけるのは家族のこと。最初はみんな『家族に迷惑をかけたくないから、そのときは病院に運んでください』と言いますね。でも、本心は違う。一生懸命にお世話していると『やっぱり、病院には行きたくない』と。意思は変わるもので、そういう例はいくらでもあります」

 ACPが不可欠なのは、患者の体調の異変を感じた家族やケアチームのスタッフが在宅医に連絡する前に救急車を呼んでしまうケースがあるからだ。特に在宅医と連絡がとれなかったり、呼吸が苦しくなったり、熱が出たりするなど症状が変化したときに、そうした対応をとりやすい。

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