帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
池田晶子さん (c)朝日新聞社
池田晶子さん (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「池田晶子さん」。

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【ポイント】
(1)池田晶子さんが語るナイス・エイジングとは
(2)肉体は年をとるが、精神は年などとらない
(3)魂の世話をして、その成熟を味わおう

 先日、いまは亡き池田晶子さんの本を読む機会がありました。池田さんのことはご存知の方も多いと思います。哲学をエッセー風に語り40冊を超える著作があります。『14歳からの哲学』(トランスビュー)というベストセラーが話題になりました。

 腎臓がんのために46歳という若さで他界されたのですが、実は私が知ったのは亡くなった後のことです。どこかの記事で池田さんが、「池田は死ぬが私は死なない」という言葉を遺したというエピソードを読んだのです。死後の世界の存在を信じている私は、にわかに興味を持ち、池田さんの本を読み漁りました。

 感心しましたね。死に対する考え方が素晴らしい。写真を見ると美人だし、プロフィールに「美酒佳肴を生涯の友とする」と書いてあるのも気に入りました。生前にお会いできなかったのが残念です。

 で、その池田さんがナイス・エイジングについてすでに書いていたのです。

「アンチエイジング(抗老化)が盛んです。(中略)年をとるということはなぜ、さほどにまで疎まれ、避けられるべきこととされているのでしょうか」(『死とは何か』毎日新聞出版)

 こう問題提起した池田さんは、

「それなら人は、いつまでも美しく壮健であることによって、いったい何を望んでいるのか。アンチエイジングが、このことによって望んでいることとはじつは何なのか」(同)

 と問いかけます。そして、おそらくそれは肉体の快楽だと語り、「私は、そのような人生を、空しいものだと感じます」と言い切るのです。

 さすがですね。人生とは一体なんなのかということを考えていないと、年をとることがいたずらに怖くなるのです。こういうことも言っています。

「人生はそれ自体が、常に初めての経験なんですよ。だとしたら、ここで、老いることばかりが否定的に捉えられるのは変だと思いませんか。初めての経験として青春にワクワクしたように、初めての経験としての老いることに、なぜワクワクしないのか」(『人生のほんとう』トランスビュー)

 いいですね。私がいつも言っている「ときめき」ということです。老いることにときめきを感じる。それこそがナイス・エイジングではないですか。

 池田さんがすごいのは、さらにこう話が続くところです。

「人間は肉体と同時に精神です。肉体は必ず年をとるものですが、精神は(中略)全く年などとらないとも言える。精神がうまく年齢を重ねてゆくことができた場合、成熟するというふさわしい言い方があります。(中略)ソクラテスは言いました。『人生の目的は魂の世話をすることである』」(『死とは何か』)

 池田さんは精神の成熟を味わうことこそ、壮年期を迎えた人間の楽しみだと語ります。

 なるほど、ソクラテスが言うように人生の後半は魂の世話をして、その成熟を味わいましょう。

週刊朝日  2019年10月11日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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