だが、背や逆におなかを突き出すような姿勢になると頭が前後に傾くため、それを支えようとする筋肉の負担が大きくなる。実際、頭を30度前に傾けると3倍の、60度傾けると5倍の力がかかるといわれている。

 パソコンやスマホを使っているときの姿勢も、これと同じことがいえる。

「筋肉にはそれくらいの重さを支える力は備わっています。しかし、その状態が長く続く『不動化』という状態があると、どうしても筋肉が疲労してきます」(同)

 同じ姿勢をとり続ければ、当然、筋肉に力が入った状態が続くことになる。その結果、緊張が高まって筋肉内にある血管が圧迫され、血流が低下する。血行不良となった筋肉からは炎症物質や発痛物質が作られ、それが神経を刺激することで、痛みや重苦しさ、こわばりといった症状が表れる。

 こうした症状があると、筋肉はさらに緊張を高めてしまうため、それがさらなる血行不良や症状を招く──まさに負のスパイラルが起こってしまうわけだ。

「特に気を付けたいのは、高齢者の肩こりです。高齢者は加齢によって骨が変形したり、軟骨がすり減っていたりするため、姿勢が前に傾きやすい。最近ではスマホを使う高齢者も多いので、前傾がさらに深まりやすい。高齢者の場合は、こりではなく痛みとして感じるようで、それが生活の質を下げてしまう要因にもなりかねません」(同)

 正しい姿勢とあわせて実践していきたいのが、生活習慣の改善だ。

 遠藤さんが外来で肩こり患者に指導しているのは、5つ。

(1)30分に1回は姿勢を整え、気分転換を⇒先の不動化を予防するため。

(2)全身運動⇒全身の血流をよくするのが目的。ウォーキングでも筋トレでも、ストレッチでも、何でもOK。

(3)インスタント食品を摂りすぎない⇒インスタント食品を摂りすぎると、ミネラルのリンが増える。筋肉の疲労回復にはカルシウムが必要だが、リンとカルシウムはシーソーのような関係で、リンが増えるとカルシウムが減る。その結果、筋肉の疲労回復を滞らせてしまうのだ。

「リンも体に必要なミネラルですが、ほとんどの食品に含まれているので、摂りすぎになりやすい。特に多いのがインスタント食品なので、こうした食品を摂るのは控えましょう」(同)

(4)ビタミンB群、D、Eを摂る⇒いずれも血流をよくするビタミン。筋肉に流れる血液の量を増やすためにも積極的に摂りたい栄養成分だ。ビタミンB群は豚肉やうなぎ、ナッツ類に、Dはキノコや魚に、Eはナッツ類に多く含まれる。

(5)入浴する⇒風呂に入ると全身の血行がよくなる。

 一方、やってはいけない肩こり対策もある。一つは強めのツボ押しやマッサージ、それから首をグルグルと回す行為だ。

「筋肉をグイグイ押すような強めの施術はときに筋肉の組織を傷つけ、痛みやこわばりがひどくなることがあります。施術を受けること自体はリラックス効果もあって悪くありませんが、優しいタッチのものを選ぶようにしましょう」(同)

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