無理もない。これで丸山には昨年11月のグランドスラム(GS)大阪、今年4月の全日本選抜体重別選手権に続いて3連敗。日本代表の井上康生・男子監督は「世界最高峰の戦い。どちらが代表になっても金を取れる」と健闘をたたえたが、五輪代表は各階級1人。この日の結果で丸山が先行したのは間違いないからだ。

 一方の詩は、強さに磨きがかかっている。

 兄譲りの豪快な担ぎ技に加え、「昔は怖かった」という寝技の技術も目を見張る。立ち技で崩した相手を寝技で仕留める練習に時間をかけ、自信を持って繰り出せる攻撃の形に昇華させた。今春、日体大に進学し、より専門的にトレーニングを積めるようにもなった。

「今までにない筋力がついてきている」

 88年ソウル五輪銅メダリストで、日体大柔道部の山本洋祐部長は詩の成長に胸を張る。

 女子52キロ級は92年バルセロナ五輪で女子が正式種目になって以来、日本勢が一度も頂点に立てていない。そんな階級で底知れぬ怪物ぶりを見せたのは、16年リオデジャネイロ五輪金メダリストのマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)を撃破した準決勝。延長にもつれた熱戦は、互いに指導2に追い込まれていた開始7分過ぎ、詩がうつぶせになったケルメンディの体をひっくり返し、強化してきた寝技で抑え込んだ。

「世界一の投げ技、テクニックを持つ柔道家。東京五輪でも最大の強敵になる」

 コソボに初の五輪金メダルをもたらしたレジェンドも脱帽するしかなかった。

 2人の柔道の出発点は、兵庫警察署(神戸市兵庫区)の柔道教室「兵庫少年こだま会」。たまたま自宅のテレビに映った柔道選手を見て「ビビッときた」という一二三は6歳で通い始めた。2年後、5歳になった詩も兄を追って柔道着に袖を通した。

「今では想像もつかないけど、一二三はよう泣きました。体が小さいから、大きい上級生に圧倒されて。ただ整列するだけなのに泣いていました」

 そう回想するのは同会の高田幸博監督だ。力が弱く、すぐ転がり、寝技も簡単に抑え込まれる。しかし、運動神経は大器の片鱗(へんりん)があった。

「小学校低学年で道場の端から端まで逆立ちで歩くんですよ。前転や後転も身軽でした」

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