「内視鏡をうまく挿入できるようになるまでに、半年から1年はかかります。AIの助けで、早期発見・治療が期待できます。大腸がんは肺や肝臓などに転移するリスクが大きく、死亡率が高い。一方で、早期に見つかれば十分治せます。AIに学ばせるデータを10万枚に増やすなど、性能をさらにブラッシュアップしていきます」(同)

 医療ベンチャー、AIメディカルサービスは、胃の検診で撮影した画像から、がんを見分ける技術を開発している。最高経営責任者(CEO)の多田智裕医師は、熟練していなくてもベテラン並みの診断が可能になると言う。

「たくさんの画像を学んだAIの支援で、肉眼では見分けにくいがんの見落としを防げます。医師とAIがダブルチェックするので、診断が高精度になります」

 胃が荒れている状態でがんを見つけるのは簡単ではない。早期の胃がんの1~2割は、検査で見逃されているとされる。この技術では、内視鏡の画像を分析させると、がんが疑われる部分を約0.02秒で特定。がんかどうかの確率を、「早期胃がん 97.03%」といった数値で示す。

 全国の30以上の大手病院やがん専門施設と連携して、40万枚以上の画像を学ばせた。6ミリ以上の胃がんの検出率は静止画で98%、動画で94%まで高まっている。

 多田さんが開発を始めたきっかけは、現場の人手不足だ。診断機器のデジタル化や高性能化によって、撮影枚数が飛躍的に増えた。X線よりもがんを見つけやすい内視鏡検査を希望する人も増えたが、医師の人数は限られている。診察が終わっても病院に残り、数千枚の画像をチェックしなければならないこともあるという。

「AIのサポートで医師の負担が減れば、患者に寄り添って診療する時間を増やすことができます」(多田さん)

 AIメディカルサービスはこの技術について、治験をして、数年後の発売を目指す。将来的には、胃がんだけでなく、大腸や食道などほかのがんの分野でも実用化したい考えだ。

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