よめはんがオカメインコのマキに話しかけると、マキは“オイデヨ ゴハンタベヨカ”と鳴いた。

 わたしにも傑作なフィッシングメールが来た。あまりにおもしろいので原文ママを紹介する──。

《私は某探偵社の調査員と申します。お客様に頼まれ、貴方のことが全面追跡調査を行います。仕事中で貴方が身分があるであることを見つけました。それで貴方が人知れずの一面を了解しました。もしこの材料を貴方に渡したら、私達にとっていいじゃないの。貴方は私の要求を満足すればいいんだよ。

 24時間以内に2個つのビットコインを支払いなさい。ビットコインをもらってから、貴方は何にも危険がないです。すべて悪い物を隠蔽します。(以下、ウォレットアドレス──)

 覚えてね、まぐれ心を持ってないでくださいね。チャンスは一回しかないよ。ご家族の幸せを祈ります》

 わたしは大笑いした。下手なコントや漫才よりずっとよくできている。翻訳ソフトの文面が絶妙だ。

 このメールをプリントして、よめはんに見せた。

「こんなんでひっかかるひとがおるん?」
「一万人にひとりぐらいはおるかもな。探偵社の調査員という発想がよろしい」「発想がよろしいって、思いあたるフシがあるん?」
「ございませんけど……」

 藪(やぶ)を突(つつ)いて蛇を出したような気がする──。

週刊朝日  2019年10月11日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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