しかし、なんら対策を取らなかった。東電の旧経営陣3人は、3人とも地震・津波の担当者の声を無視した。なぜか?

 大津波の襲来は十分予見できたのに、原発の運転停止のリスクや多大な出費を避けるため、そういった指摘に対し、聞こえないふりをしたのだ。

 ここがあたしはわからない。仮に、地震・津波対策の担当者らの意見を聞き、すぐさま対策に動いた、だけど間に合わなかった、ということで無罪というのならまだわかる。

 が、何度もそういう指摘を受けながら、金をかけたくないからといった理由でそれを無視した人たちがなぜ無罪になるんだろう。

 これを許してしまえば、この先この国の企業は、儲けるためには倫理なぞいらない、という企業ばかりにならないか?

 そして、この国の子どもたちには、なんと教えるのか?

 弱肉強食、強い者が正義であると教えるのか? 強い者が弱い者を踏みつけながら生きていくのが定めとでも教えるのか?

 すべてが金だ、と。

週刊朝日  2019年10月11日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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