序盤、戦巧者の一力に引き離され、AIの勝率判定は一力の90%を示す。しかし、ここから驚異の巻き返しに転じた。腹をくくって中央の一力の大石の攻め一本に的を絞った。

 すると安泰に見えた一力の石がみるみる怪しくなってくる。超攻撃的な棋風で「破壊王」とも呼ばれる上野の攻めがツボにはまったのだ。

「上野勝勢」。現地のプロ棋士の宣言に、報道陣がざわめく。歴史的快挙か──。直後、上野は「勝ちの手はいくらでもあったのに、唯一そこだけは打っちゃいけない手」(芝野虎丸八段)を打ってしまった。一力が息を吹き返し、大逆転の竜星連覇となった。

 終局後、上野は「取れると思っていない石が取れそうになって、動揺しちゃって。なんか、間違えちゃいました」。笑って頭をかいた。あっけらかんとした敗戦の弁に大物感が漂う。

 趣味はスマホゲーム「ツムツム」、ストレスはバッティングセンターで解消する。決勝当日は今年プロ入りした妹の梨紗初段(13)と対局場近くで鬼ごっこをしてリラックス。

 そのかいあってか対局の出来は「77点」と自己採点。「ラッキーセブンなので次、いいことがある気がします」。母の祥子(しょうこ)さん(51)いわく「天真らんまん、能天気、くよくよしない」という人柄。何ごともポジティブにとらえる前向き志向。次は優勝しかない。(朝日新聞文化くらし報道部・大出公二)

週刊朝日  2019年10月11日号