■正常の脳と腫瘍 困難な境界の見極め

 グリオーマの標準治療は、手術、放射線治療、薬物治療である。ほとんどの良性脳腫瘍と異なり、腫瘍が脳に浸潤(腫瘍細胞が正常細胞の中に広がっていくこと)しているため、腫瘍をすべて取ると脳の機能が失われてしまう。その一方で、できるだけ取らなければ、すぐに再発する。機能を残してどこまで取るか、正常の脳と腫瘍の境界部分のがん細胞をどう殺すかのコントロールが非常に難しい。

 手術は術中モニタリングや術中MRI、ナビゲーションなどの支援システムを活用し、脳の機能を確認しながら切除していく。一時的に麻酔から患者を覚醒させ、機能を確認しながらおこなう覚醒下手術も有効だ。

 東京都立駒込病院脳神経外科の篠浦伸禎医師は、次のように話す。

「影響が出る部分の機能を、詳細に確認しながら切除していきます。手先足先が動かせるか、話ができるか聞こえるかといった基本的なことから、その人の仕事や生活に必要な機能、例えば歴史の教諭なら歴史の知識が失われていないか、外国のバイリンガルの人なら母国語と日本語、両方の会話能力が保たれているかなど、より繊細な機能の確認には覚醒下手術が適しています」

 腫瘍が脳に浸潤している境界の部分には、腫瘍細胞を殺し、再発を極力抑える治療がおこなわれる。これには薬剤の留置や、手術前に特殊な薬剤を服用・注射することでがん細胞を赤く光らせ、腫瘍を切除しやすくしたり、レーザー照射をする方法などがある。

■期待される新しい 治療法や治験

 放射線治療では、ガンマナイフやサイバーナイフは原則として再発時以外使用しない。ピンポイントの照射によって、正常の脳細胞を破壊してしまう可能性があるからだ。なるべく脳の損傷を防ぐため、回数を分けて少ない線量をかける分割照射が選択されることが多い。また最近では、IMRT(強度変調放射線治療)という方法も使用されている。コンピューター制御によって腫瘍の形状に沿った照射をすることで、隣接する正常細胞への影響を抑えることが可能になる方法だ。

次のページ