国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科長・成田善孝医師(左)、がん・感染症センター東京都立駒込病院 脳神経外科部長・篠浦伸禎医師
国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科長・成田善孝医師(左)、がん・感染症センター東京都立駒込病院 脳神経外科部長・篠浦伸禎医師
覚醒下手術における機能の確認 (イラスト/今崎和広)
覚醒下手術における機能の確認 (イラスト/今崎和広)

 神経膠腫は、悪性脳腫瘍の中で最も患者数が多い。進行が速く急速に大きくなり、再発率も高い。脳の細胞に広がっていくため、手術では取り切れないことも多く、非常に治療が難しい病気の一つだ。

【図をみる】覚醒下手術における機能の確認

■悪性度が高く、再発率も高い 今後の治験や新たな治療に期待

 神経膠腫は、脳や脊髄に存在する神経膠細胞(グリア細胞)から発生する悪性の脳腫瘍で、グリオーマともいう。グリオーマには星細胞腫や乏突起膠腫、膠芽腫など、いくつかの種類がある。中でも膠芽腫は、すべてのがんの中で最もたちが悪いと言われるものの一つで、5年生存率は16%程度だ。グリオーマの患者数は原発性脳腫瘍では良性の髄膜腫に次いで多く、年間約4千~5千人が罹患する。

 膠芽腫には、幹細胞から直接、膠芽腫になるものと、星細胞腫が進化してなるものがある。幹細胞から直接できるものは、発症から半年以内で急激に大きくなる。中年以降に発症し、男性に多いのが特徴である。

病院に来たときには、仕事ができなくなっているケースも少なくありません。腫瘍の場所によって症状はさまざまで、他の病気の可能性もあるため難しいのですが、頭痛や吐き気、意識障害、けいれんやてんかん、麻痺、失語などの症状が短期間にひどくなるようなら、脳神経外科や神経内科を受診してほしいと思います」

 国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科の成田善孝医師は、そう話す。

 星細胞腫と乏突起膠腫の悪性度はグレード2~3だが、星細胞腫は再発を繰り返すと最終的にグレード4の膠芽腫となる。星細胞腫の間は症状がなく、症状が出たときにはすでに膠芽腫になっているケースもある。

 グリオーマの診断は、症状がどのように進んだかなどの問診、脳の神経学的な検査、CT、MRI、必要ならPET検査などもおこない、総合的に判断する。おおよその悪性度はMRI画像などで判断できるが、最終的な確定診断は手術で摘出した腫瘍細胞の病理検査で判断する。また最近は、病理診断とあわせて遺伝子診断も重要になっている。

 2019年6月から、標準治療が終了した固形がんの遺伝子検査が保険適用になった。これは多くの日本人に変異が見られる100余りの遺伝子についての網羅的な検査で、それによって効果のある薬剤などを選択する。また、グリオーマの国際分類の診断には腫瘍細胞の遺伝子検査が必要だが、まだ保険適用にはなっていないため、がんセンターや大学病院など受けられる施設が限られる。

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