お坊ちゃんと音楽の組み合わせはボサノヴァも同じだ。小ぎれいな身なりの若者がイパネマ海岸でガールフレンドと戯れつつギターを爪弾き、それが「新しい波」を意味するボサノヴァになった。ラブ&ピース、アメリカのウェストコーストのヒッピー文化にしても、大半は中流階級出身の若者たち、フランス・ヌーベルバーグの旗手、ゴダールにしても父親は医師、母親は銀行家の家系だと言う。

 彼らのステージに、何より演奏している自分たちが一番愉快だとでもいうような「アマチュアリズム」を感じた。世故にたけない、純粋に音楽を楽しむ学生サークルのノリなのだ。

「今日は誰から誘われたの?」

 終演後、楽屋で松任谷正隆さんに訊かれた。

「佐野史郎さんです。実は吉祥寺仲間なもので」

「どうりで。リハーサルが吉祥寺だったのはそれだったのか。しかし、(自宅から)吉祥寺まで遠かったなぁ(笑)」

 正隆さんに紹介され、鈴木茂さん、林立夫さん、小原礼さんと握手した。

 横浜からの帰り道、ジャパニーズロックの革命家たちと握手をしたのだと思い返し、改めて緊張してしまった。ちなみに、「佐野史郎 meets SKYE with 松任谷正隆」夜の部にはユーミンが駆けつけたのだそうだ。

週刊朝日  2019年10月4日号

著者プロフィールを見る
延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

延江浩の記事一覧はこちら