黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
※写真はイメージです (Getty Images)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は「現地調査」について。

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 宮古島へ行った。目的は今年の春に連載の終わった長編小説の追加取材。主人公の刑事ふたりが宮古島に行って、埋められた死体を探す場面を書いたから。

 地図と画像があれば、ある程度の情景は想像できるし、それらしく書くことはできるが、やはり現地には、そこに立ってみなければ分からないものが必ずある。それがディテールであり、小説のリアリティーにつながるのだろう。

 追加取材には編集者がふたり、連載時の担当者と単行本の担当者がついてくれた。ありがたいことだ。本来はわたしひとりでするべき取材なのに。

 夕方、宮古空港に降り立った。空港ビルは屋根に赤瓦を葺いた沖縄の民家風で、なかなかに趣がある。空港ターミナルで東京から来た編集者と合流し、平良港近くのホテルへ。

 夜の食事は、編集者が予約してくれた、しゃぶしゃぶ料理店に行った。主役は宮古牛とアグー豚だったから、わたしはもっぱら牛を食い、泡盛のシークァーサー割りを飲んで、しかるのち、近くのラウンジへ。

 そこは平日にもかかわらず、満席だった。やたらうるさい。隣のボックスに七、八人の若い客がいて、次々に泡盛の一気飲みをしている。いま宮古島はリゾートホテルの建設ラッシュで、県外から多くの建設労働者が来ていることを実感した。慢性的な人手不足の『宮古島バブル』により、彼らの日当は二万円とも三万円とも聞く。

 隣についたのは、こんがり日灼けした東京の子だった。春から秋、宮古の海でダイビングをして、冬になると家に帰るといい、ラウンジのホステス十二人のほとんどは、関東の出身だという。「地元の子はおらんの」「いませんね。西は岡山と博多の子です」全員が賄いつきの寮住まいで、店までバスで送迎してくれるといった。

 隣があまりに騒がしいので早々にラウンジを出た。まだ寝るには早いから、あてもなく路地を歩いて、赤いネオンのスナックに入った。先客がふたりに、ママがふたり。どちらもママに見えたのは、たぶん、わたしより年上だから。

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