「『純粋な“和”とは何ぞや?』という質問をされても、私は答えられないけれど、自分たちの慣れ親しんだ楽器、演目を使ってちゃんとしたものを作れば、それは『和』なんだと思います。能楽にしても、今の形になるまでには、東南アジアからの影響がきっとあったはずです」

 玉三郎さん自身、自分の表現は、様々な海外の文化の影響を受けていることを認める。それは形をまねするというより、むしろ精神の話だ。

「あの『ボレロ』を振り付けたモーリス・ベジャールさんは、クラシックバレエで修業しながら、そこに縛られなかったのです。跳んだり回ったりするのは練習すればいくらでもできますが、雰囲気や魂がなければ、鑑賞に堪える作品にはならないとおっしゃってました。もちろん、跳んだり回ったりが美しいに越したことはないけれど、舞台の作り手としてはそこが目的ではないと思います」

 世界で活躍するアーティストとたびたび共演してきた玉三郎さんだが、それらの舞台を、輸出用に作っていると思われるのは誤解だという。

「毎回、自分が心を込めて作れたのかどうかしか考えたことはありません。世界中の人が見て、楽しんでいただけるものであれば、それはとても嬉しいことです。しかし世界に持っていくために作品を作っているわけではありません。何より、通りすがりの人たちが『素敵』と思ってくれなければ、物づくりは続かないのです」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年9月27日号