国や自治体に情報公開を求めても、工事の発注者や施工業者などが黒塗りになることは珍しくない。すぐそばに「死のリスク」があっても、市民は危険性を知ることができないのだ。

 日本は世界第2位の石綿使用大国。過去に約1千万トンの石綿を輸入し、約3千種類の製品に使ってきた。製造などにたずさわった労働者や、工場の周辺住民らに健康被害が発生している。

 労災死亡者数でみると、中皮腫などの石綿関連疾患による死者は17年度で365人。労災の原因別では「墜落・転落」がワースト1(258人)のように見えるが、実際は石綿関連疾患で亡くなる人のほうが多い。

 工場などの周辺の被害も広がっている。石綿を使って水道管を製造していた兵庫県尼崎市のクボタ旧工場の周辺で、中皮腫などの健康被害が05年に判明した。「クボタ・ショック」として知られるこのケースでは、住民の被害者はこれまでに355人に上る。(ジャーナリスト・井部正之)

週刊朝日  2019年9月27日号より抜粋