「頭上をコンクリートがプラプラしている状態で怖い」といった現場の声を紹介しながら、危険な労働作業や長時間労働の状況、さらには通報窓口が機能していない点などを指摘した。

 組織委などは「関係法令を順守し安全に実施している」などと回答した。一方、BWIは「回答が不十分」として組織委などと近く会談する方向で調整している。

 JSCは新国立競技場の建設現場での対策について本誌の取材に対し、

「従前より、各事業者において、関係法令等を順守の上、適切な安全衛生管理を行っていただくよう、受注者を通じて重ねて要請しています」

 と答えている。

 伊藤弁護士は言う。

「現場の建設会社ではなく、五輪を開催する組織委なりが、全体統一的な労働安全に関するポリシーを作り、それを労働者たちに周知徹底してほしい。そのための現場調査をし、アクションを起こしてほしい。調査なんて、いつでもできる。できないはずはないのです」

 大会理念として掲げられる「復興五輪」について、今も反発の声は少なくない。

『やっぱりいらない東京オリンピック』(岩波書店)の著者の一人で、成城大学教授の山本敦久さんは、五輪を返上し、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で被災した福島の復興に力を注ぐべきだと話す。

「復興という言葉を利用して、実際には東京湾岸や都心部の再開発が進められてきました。五輪の開催は、現実的には復興が進んでいないにもかかわらず、『福島でも五輪を開催した。もう災害の収束時期なのだ』という既成事実を作るために使われるように思います。前日まで開催に反対するつもりです。スポーツ文化がオリンピックという政治に利用されてはなりません」

 朝日新聞は今年2月、岩手、宮城、福島の3県の住民にアンケートをした。12年に「いま伝えたい 千人の声」で取材した被災者やその保護者のうち転居先不明の人らを除く767人が対象で、481人から回答を得た。

 それによると、大会が復興に好影響を与えると思うかの問いに、「思う」が27%、「思わない」が68%だった。

 その理由(複数回答可)は、「華やかなイベントのかげで震災の風化が進む」(58%)、「五輪施設の建設のため作業員や資材が不足、高騰し、復興事業や住宅再建が滞る」(46%)などだった。

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