それを聞いて思った。K君が僕に自分から話しかけることはほぼなく、何か話した時にしか質問してこない。これは高校時代に徹底的に体にたたき込まれたその「教育」が抜けないのだ。K君、自分でもそれを認識していて、自分がコミュニケーション下手なのは、その時のせいだと。

 K君、うちでバイト契約しているのですが、そろそろ就職したいと、いろいろな面接を受けに行っているようで。でも、高卒で28歳。なかなかいい仕事がない。K君は言った。

「体を活かした仕事じゃないものを見つけようとするとかなり苦戦しています」と。日頃のコミュニケーションを見ているとおそらく面接でも苦労しているのだろう。甲子園から10年たち、彼の中に大きく残っているのは、先輩から教え込まれたことによるコミュニケーション下手。それにより大きく損をしている。

 高校時代に絶対であった先輩や先生。生徒はそこに疑いを持たないし持てない。その時に強引に教え込まれたことが、大人になって足を引っ張ってること、結構あるのだろう。怖いな。

週刊朝日  2019年9月20日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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