林:そこがいま称賛されてますよね。お母さまが若いころにお父さまと離婚して好きに生きてたら、こんなに共感を呼ばなかったと思う。

内田:母は、その前に文学座で出会った人と結婚してたんです。5年ぐらい。

林:岸田森さんですね。

内田:はい。すごく幸せな生活で、話も合うし、穏やかだし、金銭的にも安定した生活だったけれど、そこにものすごい絶望を感じたんですって。「これが一生続くのかと思うと絶望しかなかった。嵐のようなカオスの中の一瞬の平和にこそ大きな喜びがあるんだ」って。そして裕也と出会ったときに、「このカオスを常に背負っていたい」と思って、息をするのも苦しいぐらいになっちゃったんですって。ふつうの平和では満足できなかったから、「裕也を利用させてもらってるのは私だ。えらい迷惑をこうむってるのは裕也なんだ」って言うんです。

林:わぁ、なんかすごいな。ちょっと宗教的な境地かもしれない。

内田:母はもともと仏教の女学校だったし、20代の半ばぐらいから哲学書から宗教書からいろいろ読みあさってたんですって。読んで読んで、それを自分の中で反芻してきたので、すべて自分に原因があるんだ、という考え方が根本にあると思うんです。

(構成/本誌・松岡かすみ)

>>後編へ続く

週刊朝日  2019年9月20日号より抜粋