林:それでずっとイギリスにいらしたんですね。

内田:去年の夏も向こうにいたので、そういう後悔はあります。うちの家族は昔から家族関係がいちばん緊張するという家庭だったんで、家族のやすらぎの時間なんてほとんどなかったんですよ。小さいころはほんとに厳しかったです。

林:放任じゃなかったんだ。

内田:放任なんだけど、母の強靱な精神というか、昔は何者も寄せつけないぐらい殺気立っていて、仕事の現場でもしょっちゅう大ゲンカしたり、道で誰かが声をかけてくると「見ないで。パンダじゃないんだから」ってケンカが始まるし、私はビクビクしながら一緒にいました。

林:そうなんですか。ちょっと想像できないです。

内田:特に思春期は母に対して反発心があったし、モメごともかなりありました。まったく理解できなかったです。なぜ別居しているのに離婚しないのかということがもどかしくて。周りから漏れてくる声も「(内田さんは)いっぱい女の人とつき合ってるのに、黙ってるのはおかしい」とかなんだけど、母が「ありがたいわ。(女の人に)お世話してもらって」って言うんですよ(笑)。母はいっさい父の悪口を言わずに、「お父さんがいるからこそ、この家庭が成り立っている」って言うんです。いつもいないし、たぶん一円ももらったことがないのに。

林:「夫は私に、私は夫に、お互いに中毒だから別れられない」とおっしゃってたんでしょう?

内田:離れれば離れるほど、お互いの存在が心の中で大きくなっていった二人だったんだなと思いますね。

林:お母さま、「ああいう御しがたい存在は、自分を映す鏡になる」とおっしゃってたみたいですね。

内田:一見、母が善、父が悪みたいに見えるんだけど、母は「そうじゃない」って私に言い続けたんですよね。「おんなじものを持っている。善も悪も。むしろ善の部分は裕也のほうがずっと透き通ってる。その部分だけは絶対に離さないという気持ちで来た」って。そこまで貫くって難しいじゃないですか。それが母の強さだったんだろうなと思いますね。

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