財政検証の結果を参院選前に公表しなかった厚生労働省 (c)朝日新聞社
財政検証の結果を参院選前に公表しなかった厚生労働省 (c)朝日新聞社
年齢ごとの標準的な年金額の見通し(夫婦2人の世帯) (週刊朝日2019年9月13日号より)
年齢ごとの標準的な年金額の見通し(夫婦2人の世帯) (週刊朝日2019年9月13日号より)

 年金財政の厳しい状況が明らかとなった財政検証で、老後のマネープランの参考になりそうなのが厚労省が関連資料として出した「生年度別に見た年金受給後の年金額の見通し」だ。

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 5年刻みの生年度別に、その後の年金額を90歳まで示してある。イメージしやすいように将来の金額そのものではなく、今の物価水準に修正。現役世代の手取り収入に対する比率「所得代替率」もある。

 初めて見る人にとっては衝撃的だろう。夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯における、「標準的な年金額」(月額)の見通しだ。

 例えば、今年度、65歳となる1954年度生の金額。夫婦2人で22万円もらえるが10年後には20.8万円になり、25年後には19.1万円に減る。

「現役男子の平均賃金」では、今の35.7万円が10年後には38.9万円に増え、25年後には45.7万円にまで上がる。現役の収入はどんどんアップしていくため所得代替率は低くなり、今年度の61.7%が25年後には実に「41.7%」にまで下がる。この傾向は65歳より下の世代でも同じだ。つまり、年金は受給が始まってからもずっと目減りし続けるのだ。

 こうなる理由は二つ。

 一つは、現在行われている給付抑制策(マクロ経済スライド)だ。これはすべての受給者に適用されるため、年金額はどんどん目減りする。資料では給付抑制策が終わるのは厚生年金が25年度、基礎年金が47年度の想定だ。

 もう一つは年金制度の問題。年金額はもらい始めてからは物価に応じて改定される。物価上昇率と賃金上昇率を比べると、通常は賃金上昇率のほうが大きい。従って、年金額とそのときの現役世代の収入は差が開いていく。

 ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員は、こう警鐘を鳴らす。

「世の中の貧困度合いを測る尺度に、『相対的貧困』があります。1人あたりの所得の中央値の半分がそのラインとされますが、現役世代の収入が増えるとラインも上昇します。今のままでは、年金受給者の間で相対的貧困に陥る確率が高まってしまいます」

 将来的に貧困層に転落する年金受給者が続出しかねない、というのだ。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2019年9月13日号より抜粋

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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