しかし、課題もある。地域防災に詳しい山梨大の秦康範准教授はこう指摘する。

「ハザードマップがあっても大きな河川のリスクを対象にしており、中小河川は明らかになっていないことが多い。そのため、ハザードマップでリスクがないように見えても、単に調査をしていないだけのことがある。ハザードマップは安全マップではないということを理解しておくことが重要です」

 ハザードマップの整備が進まない背景に政治家やつながりが強い地主層の反発がある、と指摘するのは前滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員だ。

 知事を務めた14年に「流域治水推進条例」を定めた。県が農業用水路など中小の河川も含む浸水リスクを調べ、安全度マップをつくり、不動産取引などで活用することを義務付けたものだ。

「保守派の県議や市長らが『なんで地価が下がることをするんや』と猛烈に反発した。旧地主層とのつながりが強いためです。この構図は全国どこにでもあり、高度経済成長以降、災害リスクがあることを十分に知らされずにきた。その結果、危険な土地に住宅が増え、そうした地域で被害が多発しています」

 ならば土地の情報を自分で調べることも重要だ。不動産コンサルタントの長嶋修さんは、国土地理院の「治水地形分類図」を勧める。昔の地形図や航空写真などを見ることができ、自分が住む土地が低地なのか、湿地なのか、旧河川なのか、把握することができる。

「不動産業者が『大丈夫』と言ったとしても、実は昔そこには川があり、地震で建物が傾いたという事例もある。自分で調べることが大事です」

 災害への備えはどうするべきか。防災コンサルタントの三舩康道さんは「基本的なことを実行することが重要だ」と話す。地震に対しては、家具を固定し、動かないようにする。水害には、鉄筋の高い建物などあらかじめ避難する場所を決めておき、行政の避難勧告には従う。2階や3階にゴムボートを用意しておくのもいいという。

「自然災害に想定外はつきものです。災害が起きたときにどうするか、シミュレーションをして準備をしておくこと。それが生死を分けるポイントだと思います」

 災害とどう向き合い、付き合っていくか。この機会に、もしも、を想定した備えをしていただきたい。(本誌・吉崎洋夫、緒方麦)

週刊朝日  2019年9月13日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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