それでも、日本は韓国に比べて、国力も経済力も強い。戦後、再出発してからのキャリアも長く、経験も豊富なので、いわば韓国の兄のような存在である。

 だから、経済が悪化して取るべき方策がつかめず、前政権が結んだ慰安婦問題の合意を否定し始めたときに、根元の問題である韓国経済の立て直しのための方策を積極的に提案すべきだったのではないか。

 少なくとも、自民党議員の有力者の誰かが、安倍首相にそうした提案をすべきであった。以前の自民党ならば、こうした提案者がいたはずである。私はこうした実例をいくつも見ている。だから、自民党政権は長く持続できたのである。だが、現在の自民党議員たちは、安倍首相のイエスマンばかりになってしまった。

 韓国の経済が悪化して混迷しているときに、理由はどうであれ、韓国の経済に対して厳しい政策を取り続けることは、韓国を追い詰めることになるのではないか。そして、追い詰められた文政権がどのようなことをやってしまう恐れがあるのか。

 日本政府が、韓国向けの半導体素材3品目の輸出規制強化措置を発表したとき、そして「ホワイト国」からの除外が検討され始めたときに、以前の自民党ならば、諫める声が出たはずである。それがなくなった自民党を私は危惧する。

週刊朝日  2019年9月13日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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