韓国側は、今回の措置は、経産省にとっても自殺行為ではないのかと首をひねっている。輸出規制強化の対象となった3品目の日本メーカーの中には、自ら製造拠点を韓国内や第三国に移すことを真剣に考えて、韓国企業に提案しているところもある。日本側は、今頃になって、「輸出を止めるのではない。現に2件許可を出した」と言っているが、韓国企業から見れば、3品目はもちろん、他の分野でも、いつ経産省の恣意的な判断で輸出を止められるかわからない。それに備えて他の国との協業を考えようということになるが、それにはコストがかかり競争上不利になる。それで喜ぶのは、中国の先端企業群だ。アメリカが中国の先端企業を抑えようと必死なのに、敵に塩を送るような経産省の政策は、日米安全保障協力の観点からも問題だ。GAFAを含めた米先端企業の中でも、そうした懸念が強まっている。

 日米韓企業のウィンウィンの分業が、先端産業における中国との覇権争いで死活的に重要だということがわからない経産省には、「安全保障」を語る資格などないのではないか。

週刊朝日  2019年9月13日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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