「そういえば過去に相手を馬鹿にするような発言をしてしまった……なんてことを今から気にしたところで、もう取り戻すことはできません。でも法事などで必ず顔を合わせるでしょう? 気まずさをそのままにしておけば、お互いにいいことなんてないんです」

 関係修復は少しずつでいい。たとえば旅先からおいしいものを、はがきの一枚でも添えて送ってあげることから始めてもいいのだ。

「ここからは『相手がどうしたら喜んでくれるかな』ということを考えて行動していくことが大切なのです」

 定年後は、それまでとは違う人間関係が広がっていくときでもある。そんなとき、ふいに自分がマウンティングされて傷つくこともあるかもしれない。

「でもそこでマウンティングの仕返しなんて絶対にしないことです。泥沼にはまっていくことは目に見えているのですから。日頃の欲求不満から自分の優位性を誇示しようとする人もいますが、他人との比較でしか自分の幸福を実感できないせいです。そんな人に出会ったときは『この人はアホな上に、不幸な人』と思って相手にしないことが一番です」と、精神科医の片田珠美さんは語る。昔、こんな有名企業で働いていて。今もこんなに収入がよくて。配偶者の実家はこんな名家で。そんな話にカチンときて闘うのは時間とエネルギーのムダなのだ。

 誰と関わるときでも、こちらはとにかくエラそうにしないこと。定年で卒業した会社にシニアアドバイザー等で入るときでも、人の紹介で“経験豊富な、この業界の先輩”として若い人と仕事をするときでも、謙虚さを見せるほうが、相手は自分を敬ってくれる。

「でもどうしても逆の態度をとってしまう人が多いんです。それまで持っていた公式な権限を失っている分、自信がない。が、プライドは高いままなので、油断すれば『上から目線』になりがちなのです」(各務さん)

 相手方は誰もこちらを軽んじたりしていないのに、“オレをバカにするなよ”オーラをネチネチ、ネチネチ出してしまう人がいる。

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