そして赤信号で止まると、後ろのトラックから運転手が降りてきた。なんと右手にはハンマーを持っている。アジア系の外国人らしく「テメエ、ブッコロスゾ!!」と脅されたらしい。

 今にもそのハンマーで窓をたたき割りそうな勢い。うちのドライバーは茨城から出てきて僕のドライバーを始めたばかり。「東京出てきたばっかりで、道もわからずすいません」と謝ると、その運転手はわざわざ僕の車のナンバーを見て「世田谷ナンバージャネエカヨ! 東京シッテルダロ」とさらに激怒。「車、オリテ、コッチコイ!」と。ハンマーを持ったまま言っている。うちのドライバーは思った。「降りたら殺される」。そこで車を出発させて逃げたと。

 人によってモラルも違う。殴ることにためらいのない人だっている。もちろん暴力はダメだ。だが、暴力をダメだと思わない人もいる。どんだけ話したってわかり合えない人もいる。それを理解することってけっこう大事だよなと、最近強く思う。

週刊朝日  2019年9月6日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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