「KARAOKE International」は、かつて本牧埠頭にあった、港湾関係や海外からの出稼ぎの人など、国際色豊かな客が集っていたスナックをヒントにしたという。アジアン・ミクスチャー的な音楽展開で、本作から参加のパキスタン人の父と日本人の母を持つアイシャが愛くるしい歌声を聴かせる。ラストの“お客が帰ったあとで 故郷の歌 歌った”という一節が胸を刺す。

「場末の天使」は、中野英雄のプロデュースにより北方謙三の『抱影』を映画化した『影に抱かれて眠れ』の主題歌として依頼されたもの。新曲ではなく、横山が映画の舞台である野毛や都橋をイメージして書いていた古いデモ音源を引っ張り出し、メンバーの新宮虎児の加筆を得て30年越しで完成させたという。

 3連のロッカ・バラードで、横山のやさぐれ感漂う歌いぶりが見事だ。河合わかばはむせびなくトロンボーン演奏を聴かせる。

 ムチムチの、革の上下を着こんだ女性ライダーを描いた「風洞実験」、LAへの旅行にインスパイヤーされたという「車と女」など、バイクや車をテーマにした曲、ラヴ・ソングで、前作の「せつ子」の名も登場する「何もいらない」、エルヴィス・プレスリーの映画『BLUE HAWAII』を見たのをきっかけに、時空を超えて湘南ビーチに現れた「エルヴィス顔のタイムトラベラー」での滑稽さもCKBならでは。

 本作では“港街”横浜とともに、“夏”を背景にした曲も目立つ。

「ひとり」では暮れゆく夏の情景、ファンク調のグルーヴが光る「GET」では“昼の花火みたいだな”と、あっけなく過ぎていく夏の日々が歌われる。

 極めつきといえるのが、かつての夏の日の恋をテーマにした「さざえ」。昔ながらの昭和の海の家への思いも込められている。

 台湾のコンテナを見ながら台南に想いをはせて書いたという「南国列車」。その曲を横山もゲスト参加したアルバム『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』で話題のVIDEOTAPEMUSICがリミックスし、“夢と現実”をさまよう様を巧みに具現化。それもまた本作のテーマのひとつだ。

 多彩な音楽展開。その痛快さ、豪快さの一方で、夏の出来事への郷愁に満ちた歌詞。CKBならでは、の味わい深さがある。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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