●クレイジーケンバンド『PACIFIC』(初回限定盤 CD+DVD)ユニバーサル UMCK-7023
●クレイジーケンバンド『PACIFIC』(初回限定盤 CD+DVD)ユニバーサル UMCK-7023

 横山剣率いるクレイジーケンバンド(CKB)がニュー・アルバム『PACIFIC』を発表した。デビュー20周年記念の前作『GOING TO A GO-GO』から1年になる。

 ロック、ソウル、ファンクにブルース。昭和歌謡や演歌も取り入れた奔放なミクスチャー・センス。過去、現在、未来と時空を超えたユニークな歌詞。どこかキッチュな魅力を放ち続けてきた。

 そんな彼らは横浜を本拠としてきた。新作のテーマはズバリ“港街”。

 当初はテーマは決めずに新曲に取り組んできたそうだが、横山が横浜の本牧から東京に向かう際、“コンテナ”を積んだトレイラーが目の前を横切ったのをきっかけに、かつてコンテナの検査員をしていた時代のことや“コンテナ・フェチ”だった昔を思い出したという。

 表題の“PACIFIC”も、横浜港シンボルタワーの立つ高台から見下ろした目の前に広がる海が“パシフィック”だと改めて認識したことに由来するなど、当たり前すぎて見過ごしていたものが今作のテーマのヒントになったとも。

 幕開けの「Night Table」は、昭和初期に創業したホテルのイメージを重ねている。横山が子供の頃、父親に連れられて最上階にあったクラブの“シェルルーム”に行ったことがあり、後に隣接してできたライヴハウス“シェルガーデン”に出演したこともあったという、縁のあるホテルだ。

 99年に閉館し、立ち入り禁止になった同ホテルの一室でのその後の様子を妄想したもので、イントロの胡弓の調べがエキゾチック。朽ちてすさんだホテルの一室の模様がリアルに浮かび上がる。

 続く「Tampopo」は、“パートに出かける 母の背を 恨めしく見送った 日曜の朝のような”という一節、後にアパートを出て行った母親の追憶の様が切ない。

 サンバ調の「クレイジーの中華街大作戦!」は、横山にとって“時空の歪み”を覚え、アジアの旅から戻ってすぐさま訪れれば、旅の続き、余韻を味わえるという横浜の中華街を描いたもの。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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