人間はわからない。そこに込められた意味には、“人の心を正確に理解するのは難しい”というだけでなく、“どんな可能性があるかわからない”という、未来への期待もある。

「『西郷どん』で1年間、一人の人間を演じたことによって、自分自身の演じ方も変わってきました。新しい共演者が入れ代わり立ち代わりやってきては、命のやり取りのような、大変な芝居が連日続くと、心が揺れるから、最初はものすごく疲れていたんです。でも、ずっと大変なシーンばかりで息抜きもできないので、体が麻痺したのか、慣れたのか、だんだん大変だと思わなくなった(笑)。『現場に行けば、絶対できる』という強い気持ちが生まれたのと、あとは、相手役の方からエネルギーをいただいて、それを反射に変えるように心がけていました」

 役から離れて半年以上が経つが、彼の体の中には、一人の人間の人生を生き切って、国の未来を憂えたまま薩摩の地で死んでいった感覚が、今も残っているという。

「大河は、“芝居”を超えた体験でした。今は、もう一回、新たな生を与えられているような気分です」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年8月30日号