河村市長の抗議に対して、大村知事は「公権力を持つ立場の方が『この内容は良くて、この内容はダメ』と言うのは、憲法21条が禁止する『検閲』ととられても仕方がない」と強く批判している。知事と市長の、表現の自由をめぐる大論争だ。

 各新聞やテレビは、実行委員会に対する数多くの抗議、脅迫に対して強く批判し、河村市長の発言に対しても批判しているが、3日間で「表現の不自由展」を中止したことに対して、「脅迫に屈する悪しき前例になる」と危ぶんでいる。こうした企画展が今後できなくなるのではないかと、実行委員会の状況判断の甘さ、腰の弱さを批判しているのである。

 だが、大村知事も津田氏も「表現の不自由展」など企画すれば、このような抗議が殺到するのではないか、とは予想していたはずである。当然、権力筋からの牽制も予想できたはずだ。通常はこうしたことを予測すれば事を起こさないのだが、それを敢行した大村・津田コンビを私は評価したい。知事対市長の論争もおもしろい。あるいは、大村・津田コンビはこうした大問題になることも予想していたのではないか。

週刊朝日  2019年8月30日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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