一方、国際社会では、過去の日本のイメージが今も根強く残る。韓国の要人たちは、それを知ったうえで、「誰が悪人なのか」ということを国際世論に訴えているのだ。太平洋戦争では、日本が加害者で韓国は被害者。慰安婦も徴用工も、日本が犯した罪だというのが世界の常識だ。そのことを日本が否定し始めたという韓国政府の宣伝は、非常にわかりやすい。

 私が危惧するのは、過去の戦争責任を忘却しきったような今の日本のムードが、世界の人々との間に溝を生むのではないかということだ。韓国に対して「無礼」と日本が反発すればするほど、世界からは「日本は過去に目を閉ざそうとしているのでは?」と見られる。安倍総理の「未来志向」という言葉も、「未来志向なんだから、過去のことはもう蒸し返すな」という意味にしか聞こえなくなるのだ。

 8月15日は日本の終戦記念日だが、韓国では、日本の不当な植民地支配から解放された記念日「光復節」である。日本は太平洋戦争の罪を認めて謝罪しているが、日韓併合自体については、合法であったと今も主張している。この点がクローズアップされたら、安倍総理はどういう態度を取るのだろうか。

 15日は過ぎたが、韓国の非を責める前に、過去に目を閉ざしていないか、もう一度、謙虚に自省した日本人がどれだけいたのか。それがとても気にかかる。

週刊朝日  2019年8月30日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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