奥川について、最速154キロの直球に目が行きがちだが、智弁和歌山の選手たちが脱帽するのは変化球の切れだ。

「まっすぐは想定を超えてくることはなかったけれど、変化球の切れは想像以上で、裏をかかれるとまったく自分のスイングをさせてもらえなかった」(佐藤)

「フォークやスライダーはバットの前から消えるようだった。チェンジアップも切れていたし、いいところに決まる。いろんな球種を投げられる投手はたくさんいるけれど、変化球のコントロールがいいのは厄介だった」(根来)

 1年生ながら4番を任される徳丸天晴は、大きく外に逃げる変化球にバットは空を切らされた。

「まっすぐだと思って振ったら、スライダーのボール球だった。これまで、こんなに振らされることはなかった。変化球の切れがすごくて、自分が思っているより、(球が)遠いところにあった」

 智弁和歌山の選手たちは試合後の控室で、悔しさは当然ありながら、すっきりした表情も見せた。

「こういう投手を打たなければ、日本一にはなれないということがわかった。ナンバーワン投手でした」

 根来がそう振り返るように、屈指の投手と対戦できたことに晴れ晴れとした思いを抱いているのだ。

 十一回に奥川が足をつり、治療のため一度ベンチに退いた際には、西川はこう願っていたという。

「代わってほしくないと思っていました。奥川を打ち崩して勝ちたかったし、対戦が楽しかったから」

 対戦相手に爽やかな風を残して、奥川の夏はまだ続く。(本誌・秦正理)

※週刊朝日オンライン限定記事

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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